2000年5月3日。
数日前に中古車展示場で見かけたRX-7のことで頭がいっぱいだった私は、一つの決意を胸に、再びその場所へMR2を走らせていました。
本当は、ハリアーを見に行ったはずなのに。SUVに乗って、友人たちと海へ山へと繰り出し、充実したプライベートを過ごすはずだったのに。
しかし、時、既に遅し。
私はもう決めてしまっていました。お金がないにも関わらず、あのRX-7を今すぐ自分のものにする、ということを。
展示場にMR2を駐車した私は、前に来た時にRX-7が止めてあった場所へまっすぐ向かいます。
良かった、売れてない。
とりあえず、その事実に安心します。しかし、それで満足している場合ではありません。車の状態を隅から隅までチェックしながら、あらためてこの車に乗ることになって後悔しないことを確認します。
うん、大丈夫。絶対後悔しない!
私はこの時の判断を、今でも間違っていなかったと思っています。それから20年近く、他の車にしておけば良かった、なんて考えたことが一度もなかったからです。
心ゆくまでRX-7をチェックした私は、早足で展示場の事務所に向かいました。そして、一番手近にいた店員さんを捕まえ、
「RX-7の試乗をしたいんですけど」
と、のたまいます。
「…え、試乗ですか?」
入店してくるなり手順を無視した要求をしてきた客に対し、結局納車までの面倒を見てくれることになった担当「Jさん」は、多少慌てながらもすぐに手配をしてくれました。
ナンバーはありませんでしたが、広い敷地の外周を試乗路として整備している展示場でしたし、まだ新品同様のRX-7はバッテリーの劣化などもなく、すぐに火を入れられる状態にありましたので。
「Jさん」からキーを受け取り運転席へ。
当時乗っていた2シーターのMR2と比べ、さらにタイトな空間に驚きます。「運転以外の動作は何も許容しません。運転だけに集中するように」という設計者の意図のようなものを感じたのを覚えています。
スターターを回すと、ほんの数回転でエンジンが始動しました。丁寧にギアを入れ、ゆっくりと発進。そして外周を走り始め…2周を終えたところで、私は「Jさん」に言いました。
「この車、欲しいです」
広いとはいえあくまで敷地内。速度は50キロ程度までしか出せませんでしたが、そのわずかばかりの試乗で、ロータリーエンジンならではのフィーリングや確かなハンドリングに、私はすっかり魅せられていたのです。